《I’m a Victim of this Song》1995年 |
久しぶりに車で少し遠くまで。
昨年11月に北九州市立美術館(本館)がリニューアルオープンしたこともあり足を伸ばしました。
(同敷地内のアネックスは、2018年4月オープン予定)
本ブログでは初めて取り扱う北九州。
28年間親しまれたスペースワールドの閉園は、かなり話題になりました。
ただ美術鑑賞スポットについては、正直言うとあまり知らないのです。
そんな中でも今回は、以下の展示スペースと展覧会を取り上げます。
「ピピロッティ・リスト 初期のビデオ作品」展
現代美術センターCCA北九州
2018年3月2日(金)まで開催
http://cca-kitakyushu.org/
公共の交通機関だと分かりませんが(JRと折尾駅からバス?)、北九州市の中でも比較的福岡寄りなので、車だと道も分かりやすく行きやすいところです。
現代美術センターCCA北九州 外観
(北九州学術研究都市内)
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スイス出身の女性作家、ピピロッティ・リスト(Pipilotti Rist)の展覧会。
ビデオを用いて作品を制作するアーティストです。
2000年前後から世界的に注目されるようになり、その頃ちょうど筆者は大学生でした。
日本国内でも常設されている作品があります。
ひとつは、本ブログでも2016年に紹介した瀬戸内国際芸術祭の開催地である豊島。
そしてもうひとつは、石川県の金沢21世紀美術館です。
豊島
《あなたの最初の色(私の頭の中の解-私の胃の中の溶液)》2011年
http://setouchi-artfest.jp/artworks-artists/artworks/teshima/21.html
(ART SETOUCHIウェブサイトより)
金沢21世紀美術館
《あなたは自分を再生する》2004年
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=30&d=9
(金沢21世紀美術館ウェブサイトより)
いずれも行ったことはあるんですが、実は見事に逃がしていて・・・。
豊島の作品がある唐櫃岡は、島内バスのダイヤの都合上鑑賞を断念したエリアでした。
そして金沢の作品が設置された館内トイレ。
何度か行ったり来たりしたんですが、ずっと使用中(!!)だったのです。泣。
残念ついでにもうひとつ挙げると、【月刊OMA】2017年8月号で触れた「第1回 横浜トリエンナーレ(2001年)」。
彼女も参加していますが、作品、全然覚えてない・・・。
と、苦い思い出ばかり残るピピロッティ・リスト。
地元で観られる貴重な機会を逃すまいと嬉々として出かけました。
《Sexy Sad I》1987年 |
作品は全部で4点。
展覧会名のとおり、80年代から90年代に制作された初期の映像作品です。
彼女は1962年生まれなので、年齢にすると25~32歳ごろ。
ちなみに、《Ever is Over All》(車の窓をバンバン割る作品)で、ヴェネツィア・ビエンナーレの若手作家優秀賞を受賞したのが1997年なので、それよりも前ということになります。
一見するとひと昔前のミュージックビデオみたい。
歌う女性や若い男女、鮮やかな草花が断片的に重なったり消えたりします。
画面の中で潔く切り取られ、浮遊する複数のイメージ。
さまざまなアングルからズームで撮られた身体の一部。
ん?
困ったわ。
コレ、どう観たらいいのかしら。
しかもときどき、目のやり場に困るわ。
というのも、(行ってから気付いてしまったのだけれど)筆者はジェンダーとか、セクシャリティとか、そういう類の作品があまり得意ではないのです。
それに、この展覧会は各作品の解説パネルがありませんでした。
上映作品のタイトルは、展覧会の紹介文で記載されていました。
ただ、会場のどの映像がどのタイトルなのかが分からなかったんです。
各作品から流れる歌(英語)も字幕は付いていませんでした。
それが作家の展示に対する希望なら、全く問題はないと思います。
そうは言っても観てもらうために展示しているはずのに、企画の人も少々不親切です。
《PICKELPORNO》1992年 |
そんな中でも、筆者が印象に残ったのは《You Called Me Jacky》という作品。
ブロンドで短髪の女性が、おそらく作品タイトルと同じ楽曲を歌っているのです。
観客に向かって、カメラ目線で、1人で、力強く。
歌詞はよく分からないのだけど、何かを伝えようとしていることは汲み取れます。
そしてそれは、決してネガティブなことではないと思いました。
《You Called Me Jacky》1990年 |
ピピロッティ・リストという女性がどんな人なのか想像してみました。
まず、自身の興味関心にとても正直であるということ。
それはやはり、20代30代の作品であることも大きいと思います。
女性と男性、身体感覚、音楽、そして当時最新の映像技術。
そこから派生する発想と表現は、自由で、柔軟で、閉塞感を感じません。
それらに加えて彼女の作品はきちんと「優しさ」も込められています。
「思いやり」とも言えるかもしれません。
それが観る側に対してなのか、彼女自身のもともとの性格なのかまでは分からないけれど、筆者は、彼女が他人を深く愛することができる人ではないかと思いました。
彼女が心のどこかで、多くの人の幸福を願っている気がします。
日常の中で見落とされがちな、しかし人として、生きる上で大切なものを取り戻してほしいと思っているような気がします。
だから、不思議と心が満たされるのです。
あぁ、やっぱり来て良かったなぁと、なぜか思えるんです。
CCA 入口
(日祝はお休み。開館時間も気を付けてね)
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最後に、実際に観てもうひとつ感じたことは、この展示は本当に貴重な機会ではないか、ということ。
性に対する価値観が多様化する昨今、国内外で一部の観客に不快な思いをさせるなどの理由で、作品が撤去される出来事が相次いでいます。
まったく同じ展示内容を、国内の公立美術館で可能かどうか考えると、おそらく何点か敬遠されるのではないでしょうか。
会場は決して行きやすい場所ではないかもしれません。
でも、この4点をまとめて観られる機会は、もしかしたら、もうないかもしれません。
「ピピロッティ・リスト 初期のビデオ作品」展
現代美術センターCCA北九州
2018年3月2日(金)まで
http://cca-kitakyushu.org/
*ピピロッティ・リストが参加しています。
開館40周年記念展
「トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」
国立国際美術館(大阪)
2018年5月6日(日)まで
http://www.nmao.go.jp/exhibition/2018/40th.html
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最終更新:2018年2月