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2018/09/25

広島県と岡山県で現代アートを観てきました<後半> クシノテラス、S-HOUSE Museum

S-HOUSE Museum リビングダイニング(2階)

後半(2/2)は、引き続き広島県、そして岡山県です。

クシノテラスS-HOUSE Museumに初めて足を運びました。



*前半(1/2)はこちらから。
 広島市現代美術館の3つの展覧会について書きました。
 https://otomeetsart.blogspot.com/2018/09/summer-vacation1.html





『S-HOUSEミュージアム×クシノテラス合同企画展 越境するミュージアム』
 2018年12月16日(日)まで

クシノテラス[広島県福山市]
http://kushiterra.com/

展示スペース(2階)入口

『越境するミュージアム』クシノテラス(2階)展示風景

先にクシノテラスから。
旅行に向けて現代美術の展覧会を探していたとき、artscape[アートスケープ]の「ミュージアム検索で見つけました。ココでおもに取り上げられるのは、正規の美術教育を受けていない人たちが生み出すアウトサイダー・アート。筆者が普段ほとんど足が向くことのない領域です。

越境するミュージアム』は、クシノテラスS-HOUSE Museumというふたつのプライベートミュージアムがそれぞれの所蔵作品を交換展示するという企画展。なので今回の出展作品19点は、すべてS-HOUSE Museumのコレクション(クシノテラスが取り扱う作家の作品も建物内でいくつか観られます)。決して大きな展覧会ではないけれど、テーマに即した作家の選定がとっても面白くて、ユニークさを感じました。

意外だったのは野村佐紀子さん。
福岡の大学で写真を専攻されたこともあり、毎年夏に地元福岡のギャラリーで個展を開く野村さん。これまで個展形式でしか観たことがありませんでした。そしておもな被写体は男性のヌード。でも、今回は揺らめく"炎"でした。静止せず、また決して同じ形態に戻ることのない物体を暗闇の中でとらえた作品。ずっと眺めていると吸い込まれそう。とは言え、展覧会全体を見渡すと、1点だけ浮いている、という感じはしません。それはどの作品も同じだった気がします。

展覧会のステートメントはとても分かりやすかったのだけれど、鑑賞した直後は自分が感じたことをうまくまとめられなかった筆者。なんかもやもやしてたと思う。にも関わらず、こうやって反すうして文字に起こすと、大変よく練り上げられた良い展覧会を観たのではないかと、今になってじんわりと感じるのです。

クシノテラス(2階)

クシノテラス 2階 本棚(左奥)

それから。
窓際の棚のヤンキー人類学-突破者たちと「アート」の表現という本になぜか見覚えが。初めて来たのになんでだろう??と手に取ると、そこに載っていたのは超ド派手なヤンキーバイク。コレ、見たことある!!場所は福岡のWALD ART STUDIO(ヴァルトアートスタジオ)で開催された『釜山ビエンナーレ2014 関連企画 ちっご共道組合「CRAZY SPECIAL」展』という展覧会。企画者の人は、鞆の津ミュージアム(広島県福山市)の企画展『ヤンキー人類学』にものすごく感動したのがきっかけで…とトークイベントで話していたんです。そして、その『ヤンキー人類学』をキュレーションしたのが、クシノテラスを立ち上げ運営する櫛野展正さんでした。

えっ?これもアウトサイダー・アートなの??
という問いが真っ先に浮かびました。これまでは障がい者や精神的な病を抱えた人の作品を、そう呼ぶものだと思っていたから。けれども、何かを生み出すことに執着し、命を注ぐのは決してアーティストや職人、ましてやハンディを持つ人だけの特権ではないのです。そのことを気付かされた気がします。



最後に。
この秋、福岡県糸島市で櫛野さんのトークイベントがあります。



糸島国際芸術祭2018 糸島芸農
スペシャルトークセッション + 九州大学ソーシャルアートラボ
シリーズ「アートと社会包摂」公開講座 vol. 3
アウトサイダーアートが問いかけるもの—福祉と芸術の狭間から

日程:2018年10月28日(日)
時間:14:00~15:40(13:30開場)
場所:松末権九郎稲荷神社拝殿(糸島市二丈松末)
入場無料。ただし観覧チケットが必要です。

https://www.ito-artsfarm.com/2018/10/13/talk_kushino/

★参加方法などの詳細は上記のウェブサイトで必ずチェックしてね。



*ブログ内の関連記事*

【月刊OMA(オーマ)】2016年10月
糸島国際芸術祭2016 糸島芸農 藤浩志さんの≪うみかえる≫
https://otomeetsart.blogspot.com/2016/11/monthly-journal-oma-201610.html






S-HOUSE Museum[岡山市南区]
http://s-house-museum.com/

S-House Museumはもともとおうちです。ちょっと違うのは、金沢21世紀美術館などでも有名なSANAAが設計した最初の木造個人住宅だということ。家屋としての役目を終え、2016年に美術館として生まれ変わりました。

基本的な間取りは住宅の時のままのようです。でも、そこがとっても面白い。玄関を開けてまず聞こえるのは、大声で複数の人が掛け合いながら叫ぶ声。Chim↑Pomの作品です。

Chim↑Pom 《SUPER RAT -Scrap & Build 2017-》部分 展示風景(1階 書斎)

いろんなところに作品が潜んでいます。リビングや寝室はもちろん、トイレやお風呂場にまで。階段の隅には、おとなりの部屋からレトロな電車が走ってきます(目の作品の一部)。

回廊(1階)の収納棚には映像作品が隠れています。そおっと引き戸を開けると大きな映像モニタ。回廊の幅が住宅サイズなので、間近で観られて逆に作品に集中できます。引き戸を開ける時のドキドキ感もステキな演出です。

そのうちのひとつ。
高田冬彦さんのグリム童話『ラプンツェル』(もしくは映画『塔の上のラプンツェル』)をモチーフにした《DREAM CATCHER》という作品。ラプンツェルに扮した女の子(ブロンドじゃなくて黒髪)が歌いながらぐるぐる回る(踊る?)んです。回り続けるもんだから、長い三つ編みがどんどん身体に巻き付いちゃって、時々お部屋の家具にぶつかるし、髪に視界が塞がれて転んじゃうし(でも起き上がってまた回る、もちろん歌も)…。もう可笑しくって可笑しくって。モニタとの距離が近いので、とにかく、強烈です。笑。

越境するミュージアム』展関連は、和室(1階)の長恵さんのインスタレーション作品。2階にも小さめの作品が展示されています(記事冒頭の画像にも写ってます)。クシノテラスで観たS-HOUSE Museumのコレクションと比べると、その大半がサイトスペシフィック。しかも展示する作家をあえて固定し、年に1回新作を加えてもらうんだそうです。その契約を10年という期間を区切って、各作家と結んでいるとのこと。クシノテラスでは、それ以外の作家の作品も観られました。逆に言うと、日頃は目にすることができない豊富なコレクションの一部だったのではないでしょうか。

毛利悠子《子供部屋のための嬉遊曲 ししおどし》展示風景(1階 回廊)

じっくり一巡して。
なぜか元気になりました。個々の作品から発せられる、作りたい、表現したい、モノ申したいという強い強いエネルギー。おそらく作家自身も、自分ひとりの力ではせき止めることのできない、湧き上がる渇きや呻き。そういう目に見えない何かが、ビシバシ突き刺すように、あるいはそっとささやくように、どの作品からもそれぞれ様々な形で伝わってくるのです。

ただ正確に言うと、すべての作家が観客に元気を届けるために作ったわけではないはずです。耳を傾け、見たい、知りたいと願った時、作品と、その空間全体から共鳴して放たれるエネルギーが筆者の内側で作用して、"元気"に変換されたんだと思います。

S-HOUSE Museum 外観

本音を言うと。
せっかく岡山県まで赴くなら、実は奈義町現代美術館(以下、Nagi MOCA)に行きたかったんです。でも、ちょうど旅を計画していた7月に西日本豪雨があり、電車や道路の復旧状況が読めなくて今回は断念しました。S-HOUSE Museumの創設者である花房香さんは、Nagi MOCAの美術館構想から、建築家、作家の選出に至るまで深く携わった方でもありました。

次はいつ来られるかなぁ。瀬戸芸の時か、岡山芸術交流か…。新しい場所に出向くと、また来たくなるし、もっと行きたいところ、観たいものも増えちゃいますね。いずれにしても、再び訪れる日を願って。その時を楽しみにしたいと思います。





以下の記事に、今回訪れたところをまとめました。
地図には本記事で紹介した行きたかった美術館なども掲載しています。

【鑑賞記録】2018年8月 夏休み。瀬戸内海、再び。
https://otomeetsart.blogspot.com/2018/09/monthly-journal-oma-201808.html





『S-HOUSEミュージアム×クシノテラス合同企画展 越境するミュージアム』
 2018年12月16日(日)まで


クシノテラス[広島県福山市]
http://kushiterra.com/
Facebook

S-HOUSE Museum[岡山市南区]
http://s-house-museum.com/
Facebook


ふたつの会場は開館日や開館時間が異なります。
お出かけ前に必ずウェブサイトかSNSにてご確認ください。





*各ウェブサイトのURLやページ名称などは予告なく変更される場合があります。

注)掲載している画像や文章の中には、特別に許可をいただいているものもあります。内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。

*2018年10月14日
 櫛野さんのトークイベントの詳細情報を加筆しました。



最終更新:2018年10月