イシャン・コースラ ≪ゴドナ書体≫ のスタンプより |
今月は福岡アジア美術館(以下、アジ美)です。
福岡市美術館が休館中(2019年3月まで)ということもあり、筆者が今もっとも足を運ぶアートスポットのひとつになっています。
「アート横断」というシリーズ展は今回で5回目なんだそうです。美術とは異なるジャンルを積極的に取り入れたアーティストに注目し、新しい美術のあり方を紹介する展覧会。当然のことですがココは「アジア美術館」なので、日本人のほかに、韓国、香港、シンガポール、インドネシア、インドなど、さまざまな国や地域のアーティストが参加しました。
エクシード ≪共鳴するオーラ≫ 2015年~ |
≪共鳴するオーラ≫ |
まずひとつめは「最新技術(technology)」。
上2枚の画像はエクシード(XCEED)という香港の若手クリエイティブ集団。静止画では伝わりませんが、黒い台に置かれた立体作品のパネル部分は回転しています。そしてパネル部分に流れる映像は無数の点がひと時も休むことなく曲線を描いたり、大きな光の玉を作ったりします。胎動のような音も鳴ってる?まるで銀河系の成り立ちを見てるみたい。そんな最新技術で描かれた小宇宙が、近代工業を象徴するような歯車の上に乗っかっているんです。パネルが縦にくるくる、歯車が横にくるくる。観ていて飽きない作品でした。
モノサーカス ≪モノサーカスの身に着けるもの≫ 2011~2017年 部分 |
ナム・ジュン・パイク ≪冥王星人≫ 1993年 福岡市美術館蔵 |
それからモノサーカス(MONOCIRCUS)。シンガポール出身の女性アーティストと、デザイナー・建築家である日本人男性によって立ち上げられたデザインアトリエです。今回は白を基調としたネックレスやブローチ、ヘアクリップなどのアクセサリー系の作品。思わず手に取って身に付けたくなるアイテムばっかり!こういうカワイイものに弱い筆者です。この不思議な造形のヒミツは最近一般化してきた3Dプリンター。これらの作品はオンラインショップで販売されています。
ナム・ジュン・パイク(Nam June Paik)は福岡では有名ですね。複合商業施設キャナルシティ博多内のスタバの上にある180台のブラウン管テレビ。あの作品と同じ作家です。「これのドコが最新技術?」とお思いかもしれませんが、実は彼は今からおよそ50年ほど前に世界で初めてビデオアート作品を発表した人。≪冥王星人≫にも、顔と胴体の部分にモニターがはめ込まれています。パイクとエクシードの映像を見比べたら面白かったかもしれませんね。
ホァン・ボージィ ≪500本のレモンの木 美術館への提案ー工場≫ 2013年~ |
ジュリアン・エイブラハム・トガー ≪自然の大地≫ 2015年 |
さて。
このあたりからふたつ目です。
彼らが大切にしたのは「関係性(relation)」。
ホァン・ボージィ(Huang Po-Chih)は、プロジェクトに賛同する500人から資金提供を受けてレモンの木を栽培し、試行錯誤を繰り返してそのレモンからお酒を作ります。そのお酒はオープニングイベントで多くの人に振る舞われました。みんなほろ酔い気分で自然な笑顔に。その最大の協力者であるホァンのお母様も本展では来日されました。
ジュリアン・エイブラハム・トガー(Julian Abraham "Togar")は、瓦のまち、ジャティワンギに着目します(googleで「インドネシア ジャティワンギ」で検索すると瓦に関する記事が日本語でも出てきます)。彼は瓦の原料である土でクッキーやフレグランスオイルを作ったり、肉体労働で筋肉もりもりになった瓦職人たちとボディビル大会をしたり・・・。会場に置かれたジャティワンギの瓦は、鑑賞者も触れることができました(想像以上に重くて筆者は触れた時点で断念。笑)。視覚にとどまらず、触覚や嗅覚でも感じることができる作品です。
ペグ・ジョンギ ≪マテリア・メディカ(薬物学)ー冷たい灰≫ 2017年 |
≪マテリア・メディカ(薬物学)ー冷たい灰≫ 部分 |
イシャン・コースラ(Ishan Khosla)はニューヨークの大学でデザインを専攻しましたが、生まれ育ったインドでデザイナーとして活動しています。彼はインド各地の工芸や入れ墨など生活の中で脈々と受け継がれている意匠から、現地の職人や女性たちと共にオリジナルの英語活字書体を作ります。会場にはそのひとつである≪ゴドナ書体≫のスタンプが設置され、鑑賞者も自由に押すことができました。
コースラは図録の参加作家インタビュー(27ページ)の中で、「工芸家や部族出身のアーティストと仕事をするとき、まず重要なことは、相手を尊重し対等なパートナーとして扱うこと、そして彼女たちこそがその歴史の知の仕組みの正統な継承者であることを忘れないことです」と語っています。
イシャン・コースラ ≪タイプクラフト構想≫ 2011年~ |
筆者の感想は・・・。
実を言うと、はじめは『創造のエコロジー』という展覧会名の意味がよく分からなかったんです。特に「エコロジー」が展覧会の公式サイトを読んでも全然ピンときませんでした。エコって環境のこと?アジ美で環境問題をテーマにした作家のグループ展?という具合に。
でも、今回記事にしてみて、「作品が生まれる条件とかかな」と思いました。
最新技術を使いこなすには知識や専用の機器が必要です。関係性を重視するなら、相手に敬意を払わなければならないし、互いの信頼を得るにはきっと時間もかかるでしょう。予想以上に良い結果が出たり、あるいば逆の場合もあったかもしれません。今回の参加作家の作品にはその経緯が見えます。アーティストたちの誠実さや辛抱強さ、協力者とともに作品の経過や完成を喜ぶ姿。彼らにとって「合理的であること」や「効率的であること」はあまり重要ではないのです。それがいいなと思いました。
イシャン・コースラ ≪ゴドナ書体≫ 2015~2017年 より |
それからもうひとつ良かったのは、ホワイトキューブじゃなかったことです。展示会場は人が行き交う美術館のエントランスと彫刻ラウンジでした。エントランスは来館したら必ず通ります。彫刻ラウンジは、同じ空間にカフェや、絵本やぬいぐるみがあるキッズコーナー、座り心地のよい大きなソファがいくつもあります。それに日光がたくさん差し込むガラス窓も。
そんな場所にポッと作品が置いてある。大抵の人は足を止めます。「コレは何だろう」とか、「よく分かんないなあ」とか、「なんか楽しい」とか考えます。でもコレって、日常にアートという非日常を感じるステキな瞬間ではないでしょうか。たとえ観る人がそれを意識していなくても。きっとその人の心の中でいつもと違う何かが起こっています。
『アート横断』。
アートを通じて、アーティストと協力者と作品と鑑賞者、人と人との間もどんどん横断して、国境を越えて、既存の領域を超えて、これからも新しい何かをどんどん生み出してほしいと思った展覧会でした。
◎今回参考にさせていただいたウェブサイトなど◎
■ 展覧会公式サイト
各アーティストのインタビューも掲載されています。
■ 氏名のアルファベット表記にはったリンクは、各アーティストのホームページです。
※ナム・ジュン・パイク除く。
■ 「アート横断Ⅴ 創造のエコロジー@福岡アジア美術館」
(『ART iT』より)
http://www.art-it.asia/u/admin_ed_pics/GlxU3m7Fqdve5wKp9NP1
■ 「コースラ文字の遊び方 How to play with Khosla's letters」
(福岡アジア美術館ブログ FAAM BLOGより)
http://faamajibi.blogspot.jp/2017/02/blog-post_24.html
■ 氏名のアルファベット表記にはったリンクは、各アーティストのホームページです。
※ナム・ジュン・パイク除く。
■ 「アート横断Ⅴ 創造のエコロジー@福岡アジア美術館」
(『ART iT』より)
http://www.art-it.asia/u/admin_ed_pics/GlxU3m7Fqdve5wKp9NP1
■ 「コースラ文字の遊び方 How to play with Khosla's letters」
(福岡アジア美術館ブログ FAAM BLOGより)
http://faamajibi.blogspot.jp/2017/02/blog-post_24.html
■ 「【月刊OMA(オーマ)】2016年12月
ジュリアン・エイブラハム・"トガー" ≪盆栽武博物館≫ 」
トガーがアジ美のレジデンス・プログラムで発表した作品について書きました。
https://otomeetsart.blogspot.jp/2017/01/monthly-journal-oma-201612.html
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2017年3月の記録
3日 三菱地所アルティアム (イムズ8階) 【個展】
「鹿児島陸の図案展」
イムズ イムズプラザ (イムズ地下2階) 【展覧会】
「九産大プロデュース展2017」
11日 福岡アジア美術館 【トークイベント】
あじび美術講座 ◎連続講座◎ フィリピン現代美術入門②
アートと地域~福岡、フィリピン、東南アジア
18日 現代美術センター CCA北九州 CCAギャラリー 【グループ展 / オープニング・レセプション】
「CCAフェローシップ・プログラム展」
19日 福岡アジア美術館 【グループ展】
小企画展「アート横断Ⅴ 創造のエコロジー」
25日 なみきスクエア 【ワークショップ】
福岡市美術館 移動美術館「どこでも美術館」
「どこでも美術館:アート楽しんで 福岡市美術館、出張イベント/福岡」
(毎日新聞より)
https://mainichi.jp/articles/20170326/ddl/k40/040/273000c
WALD ART STUDIO (ヴァルト アート スタジオ) 【グループ展】
「MONOCHROME SHOW vol.3 ー白と黒の間に」
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*最終更新:2017年6月