井上 絢子 さん ≪向こうで見えたら暗い≫(左), ≪ここからそうなってしまう≫(中央上), ≪一転、同じ≫(中央下), ≪ことさらに開いた≫(右) 「Lochal Prospects 2 アイデンティティ」展 三菱地所アルティアム |
芸術の秋です。
筆者が大好きな作家さんの展覧会会期が重なったこともあり、たくさんの場所にお邪魔しました。
OMA(オーマ)11月号では訪れた場所や拝見した作品を写真でご紹介しながら、美術鑑賞について最近思うことを綴ってみたいと思います。少々小っ恥ずかしいのでタイトルは英語で。
その前に。
まずはこの場を借りて、今回この記事のために画像の掲載をこころよく許可して下さった作家さんをはじめ多くの方々に厚く御礼申し上げます。合わせて、執筆を応援して下さる方と読者の皆様、いつも本当にありがとう。
さて。
以前、OMA(オーマ)2016年9月(前半)で「オフの日に何をして過ごすか」について少しだけ触れました。
足繁く展覧会や関連イベントに通う(と身近な方々に感心され半ば呆れらますがもちろんそれが叶わない時もあります)筆者ですが、それは自分にとって良いことがたくさんあるからです。
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マイケル・リン(林 明弘) ≪Green House≫ 九州大学(伊都キャンパス)ウエスト2号館1階エントランスホール |
日ごろ仕事や人間関係でせわしなく働く脳のどこかがお休みします。
逆に平日お休みしている部分が目を覚まして息を吹き返します。
観るという行為に集中することで、個人的な悩みや厄介な事から一歩引くことができます。
それらの問題について糸口になりそうなヒントがふと浮ぶこともあります。
「したいことがある」「行きたい場所がある」「会いたい人がいる」ことと、それらが実現可能な条件や時間を作れることは、とても幸せだとも思います。
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牛島 光太郎 さん ≪意図的な偶然 - 5≫(布の作品), ≪みちのもの≫(ガラスケース内) 「わすれもの―AQAプロジェクトの活動と未来」
九州大学(伊都キャンパス) 椎木講堂ギャラリー
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(画像はクリックすると拡大できます)
すいぶん前にある人が「自分にとって美術鑑賞は目の保養」だと話してくれました。
筆者もそれが最も一般的な答えのひとつだと思います。
例えばあなたがある作品の前でふと立ち止まったとします。「色がキレイだな」とか「これは何だろう」とか思います。観ているうちに「とっても柔らかそうなほっぺただな」とか「でも服のセンスはイマイチだな」とか考えたりします。
そうして思い巡らせたことは、すべてあなたのものです。
大丈夫。あなたがその作品の前で何を考えても、誰もそれを目にすることはできません。どんなに空想にふけっても、隣に立つ見知らぬ人に知られることはありません。なぜならあなたの心で感じたことは、あなたが誰かに伝えない限り、いつまでもあなたのものだからです。
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床田 明夫 さん ≪「モモグリ玉」 800点≫ (一部) 「美 つなぐ 香椎宮」展 |
誰かと一緒に観ると、その出来事はあなたとその人だけのものです。
ひとりの時と違って、お互いに感じたことを話すことができます。同じ物を目にしても、感想が似ることもあれば、自分とはまったく違う意見を持っていたりします。あなたは相手が自分とは異なることを知ることができます。
それは決して悪いことではありません。
むしろ、あなたはそれによって新しいことに気付けるかもしれないからです。もしそんな発見があったなら、そしてそれが相手を悲しませることでないならば、ぜひ一緒にいる人に伝えて下さい。きっとお互いにとって大切な思い出のひとつになるはずです。
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「九大百年 美術をめぐる物語」展 福岡県立美術館 |
ただ時折、どんなに目を凝らしても「分からない」作品があります。「分からない」ということは、誰にとっても不快で、スッキリしないものです。その対象が人だったりすると、相手に対して不信感や苛立ちを生む原因になってしまいます。
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辻川 綾子 さん ≪1-T465B≫ (一部) 辻川 綾子 展 『「すきま」からナる』 Wald Art Studio |
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辻川 綾子 展 『「すきま」からナる』 |
美術鑑賞の「分からない」を解消する最も手っ取り早い方法のひとつは、「キャプション/解説パネル(以下、キャプション)」を読むことでしょう。それは基本的に作品のすぐそばにあります。タイトル(作品名)や作者名、作品の材料についてコンパクトに記載されています。
近年、キャプションにも工夫を凝らす展覧会や美術館が増えてきました。逆にキャプションを極力設置せず、入場時に出品リストが渡されたり、音声ガイドの貸し出しがある展覧会もあります。個人的には、鑑賞中に読むテキストが増えると必然的に鑑賞時間も伸びてしまうので少々悩みの種ではあるのですが。
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キエン・イムスィリ ≪音楽のリズム≫ 福岡アジア美術館蔵 |
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≪音楽のリズム≫ キャプション/解説パネル |
もし、読んでも「ピンと来ないなー」と思うなら、こんな感じでキャプションを活用してみてはいかがでしょう。
[タイトル]
何という名前なのか。
英語では何と訳してあるか。
作家が英語圏の方ならそれが原題、作家の意図に即している場合もあります。
[作家名]
誰が作ったのか。
男性なのか、女性なのか。
女性なら解説文中に載っていることもありますが、
あえて性別を記載するキャプションはあまり見たことがありません。
氏名で見分けが付かない国や地域もあります。想像してみましょう。
[作家の出身地・在住]
日本人なのか、そうでないのか。
外国人ならば、あなたが行ったことがある場所でしょうか。
その国や地域に対してどんなイメージを持っていますか。
たとえば、文化や気候、歴史上の人物や代表的な食べ物などなど。
[作家の出生・没年]
どのくらい前の時代を生きた人物なのか。
それともまだ生きている人なのか。
自分と何歳くらい違うのか。
長生きしたのか、短命だったのか。
[制作年]
作者が何歳ごろに作った作品なのか。
若い頃なのか、晩年なのか。
[作品の材料]
平面作品なら布に油彩、紙に水彩、木版画、ゼラチンシルバープリント(写真)など。
彫刻や空間芸術なら鉄や木材、布や和紙、プラスチックなど。
上の画像にある「ブロンズ」は青銅(銅にスズなどを混ぜた金属)のことです。
最後に。
どうしてあなたはその作品の前で立ち止まったのでしょう。
(目線は作品に戻してね)
あくまでも(もう一度言いますが、あくまでも)一例です。
ただ、1枚のキャプションからさまざまことが連想できるのです。
ただし、キャプションは読んでもいいし、読まなくてもよいのです。
先に読んでもよいし、あとで読んでもOKです。
もしキャプションに誤字脱字、翻訳やスペルの間違いを見つけたら、近くの監視員さんにそっと教えてあげましょう。
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黒田 久美子 さん ≪ねずみ/MICE≫ 福岡県立美術館 |
テキストを読むことが苦手な人もいるでしょう。
そんな方で、あなたが身近に子どもと接することができるなら、彼らが素晴らしいお手本に示してくれます。
彼らの鑑賞スタイルは勇敢です。なぜなら彼らは自身の主観だけで観て体感し、堂々とその感想を表現することができるからです。すっかり楽しい気分になってダンスを始める子もいれば、ぎゅっと眉をひそめて黙り込んでしまう子どももいます。
一方、観覧中は大して興味を示さなかったのに、「今日のお空はこの前観た絵みたい!」なんてふいに話を持ち出し、こちらが驚かされることもあります。大人からすると予測不可能で、未熟に見えるかもしれませんが、マナーこそあれ美術鑑賞に正解はありません。だって自由に観て構わないのですから。
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「田代 国浩 展 2016」
Creators' Ark / CA Gallery
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最後に。
美術を観る場は決してあなたを拒みません。
作品たちはいつでも喜んであなたを迎えてくれます。
どうかそのことを忘れないで下さい。
今ここで読んだことがあなたに勇気を与え、何かをもたらすきっかけに繋がりますように。
*今すぐ美術館や博物館に行けない人へ*
Google Arts & Culture
(グーグル アーツ&カルチャー | パートナー)
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2016年11月の記録
4日 福岡県立美術館 【展覧会】
「九大百年 美術をめぐる物語」
「ピーターラビット™展」関連イベント
ワークショップ 「新聞紙アート~新聞紙でウサギを作ろう!~」
黒田 久美子 さん (ワークショップ講師) 作品展示 ≪ねずみ/MICE≫
WHITE SPACE ONE 【個展】
「森田 加奈子/氷山の一角獣」
6日 福岡アジア美術館 【展覧会】
「THE 世界名作劇場展
~あの感動がよみがえるラスカル、パトラッシュ、トム・ソーヤー~」
7日 香椎宮 庭園・勅使館 【グループ展】
「美 つなぐ 香椎宮」
(参加作家は展覧会名のリンク先に掲載されています)
8日 九州大学 椎木講堂ギャラリー(伊都キャンパス) 【グループ展】
「わすれもの―AQAプロジェクトの活動と未来」
*参加作家などの詳細はこちらから↓
九州大学 文学部 美学美術史研究室 「AQAプロジェクト」 ウェブサイトはこちら
牛島 光太郎 さんのウェブサイトはこちら
12日 ギャラリーおいし 【グループ展】
「ARTISTIC SYNDROME」
三菱地所アルティアム (イムズ8階) 【グループ展】
「Local Prospects 2 アイデンティティ」
アートスペース貘 【個展】
「内野 ゆきな 展」
art space tetra 【トークイベント】
Asian Arts Air Fukuoka
「Gate 04 Jogjakarta, Taipei, Bandung」
19日 Wald Art Studio 【個展】
辻川 綾子 展 『「すきま」からナる』
23日 Creators’ Ark / CA Gallery 【個展】
「田代 国浩 展 2016」
26日 HAKATA JAPAN 【展示販売会】
「A's glass studio 2016 STAINED GLASS exhibition」
ギャラリーおいし 【個展】
「浦川 大志 『個展』」
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*キエン・イムスィリ ≪音楽のリズム≫に限り、2017年1月に撮影したものです。
注)掲載している画像や文章の中には、特別に許可をいただいているものもあります。内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。
*最終更新:2017年1月